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ココロのコラム

2013 Autumn

ココロのコラム
PROFILE    有賀 三夏(ありが みなつ)
静岡県生まれ。女子美術大学大学院卒。中学の美術教師を務めた後、美術教育の改革に目覚め渡米。カンザス・ピッツバーグ州立大学大学院で心理学を学び、ボストンのレスリー大学大学院でアートセラピーとヒーリングアートを学ぶ。現在は東北芸術工科大学講師。自身でイラストも描いた絵本「Three Little Ones and Golden Mane 」などの著書あり。

アートセラピーとは何か?

アートセラピーとは、芸術(アート)を使った心理療法で、欧米では1940年代から用いられています。セラピーにおけるアートの定義を一言で説明するのは難しいのですが…あえて言葉にするなら「人から創り出されるもの。または人の心を可視化して表すもの。」ではないかと思います。「学生の頃から美術が苦手だった」という方々は特に、その有効性にしばしば疑問を持たれますが、絵の巧拙は無関係。人間が何かを作り出す行為を全てアートと捉えます。人が生まれながらに持つ「創り出す力」を、心や体を治療する手段として使っているのがアートセラピーなのです。

では、アートセラピーとは具体的に、何をするのでしょうか? クライアントの症状によって様々な方法がありますが、代表的なものは「色や形を用いて何かを創り出すアートセラピー」です。創作プロセスの中で起こる様々な選択は無意識の情動欲求に関連するかもしれませんし、創作により心の問題が可視化され、クライアントが自身と向き合うきっかけともなります。アートセラピーには、クライアント自身が問題に近づき、自らを治癒する効果があると私は考えています。

アメリカと日本のアートセラピー

アメリカにおいては、セラピーのセッションに保険が適応できるところも多く、アートセラピーも医療施設、ホスピス、ホームレスシェルター、刑務所などでも幅広く活用されています。またアメリカでアートセラピストになるには、米国アートセラピー協会により単位認定されている特定の大学院で必要科目を履修し、資格試験に合格しなければなりません。ちなみに日本ではアートセラピストについて、現在時点では規定がありません。各機関からそれぞれの資格認定証が発行されており、アートセラピストとして活動するというより、臨床心理の一領域として、知識を併用し活躍されている方が多いのではないかと思います。

とはいえストレスの多い現代日本では、多くの人々が「癒し」が求めています。アロマセラピー、ミュージックセラピー…そしてアートセラピーも徐々に認知されつつあり、その成果が期待されています。最近では精神医療の領域のみならず、緩和ケア関連の医療施設や介護施設でも取り入れるところが増えてきました。また認知発達段階の精神的または感情的な問題にも適用でき、教育領域での想像力開発にも応用されはじめています。

癒しのストーリー

私の親友、アンは現在、アメリカの病院でアートセラピストをしています。これは彼女が担当したクライアントの話です。

お気に入りのビーズでアクセサリーをつくる。

クライアントの名前はブレンダ。50歳代で悪性の進行性がん患者でした。彼女の症状は重く、ベッドの上で過ごす日々。ある日「ベッドでも出来る何かをしたい。」と訴え、アートセラピーを試してみることにしました。
彼女が選んだアートセラピーは、ガラスビーズを繋げるだけの簡単なもの。さまざまなビーズが入った箱の中から、お気に入りを見つけて、それを繋げ、ブレスレットにします。その作業の間に彼女は自身の人生の話をしました。作品が完成するとブレンダはそれをじっと見つめ、「なんて素敵なのかしら!とっても気に入ったわ!私がこれを作ったなんて信じられない!」と喜んだそうです。
その後、ブレンダは闘病の間に、友人や家族、病院スタッフのために、30個以上のブレスレットを作りました。「美しいビーズを選びながら、それをワイヤーに通す作業は私を虜にして、私の心から癌による苦痛を奪うのよ。」とよく言っていたそうです。
アートセラピーは、痛みや恐怖からブレンダを救っただけでなく、死が迫っていた彼女に新しいスキルを学ぶ機会を与えました。そして、ブレンダは大切な友達や家族に気持ちを込めて制作した特別なプレゼントを残すことができたのです。