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FRONT LINE

2013 Autumn

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第2回 大腸がん治療の最前線を訊く

大腸がん治療における化学療法の有用性は、今後ますます高まるでしょう。 食生活の欧米化による高カロリー・高蛋白質食の摂取などを背景に、日本の大腸がん(直腸がん・結腸がん)の罹患者が増加傾向にあります。早期に発見して適切な切除ができれば根治も可能ですが、手術がかなわない患者さんも少なくありません。そうした患者さんの新しい選択肢として、従来の殺細胞薬だけでなく分子標的薬が注目されています。

根治率が高いが3割では切除不能に

日本人の大腸がん罹患数(2008年、全国推計値)は、男性が約6万6000人、女性が約4万7000人で、部位別で見ると、男性は胃がん、肺がんに次いで3番目、女性は乳がんに次ぎ2番目に多いがんです。一方で、大腸がんは、早期に発見すれば高い確率で根治が見込めるもので、内視鏡手術や肝転移の手術なども進歩しています。

しかし患者の約3割では、切除不能な転移が起きます。このため、抗がん剤も多く出されており、延命効果が図れるようになっています。

がん検診を受ける人が多くなり、禁煙対策が進んだことで肺がんが減少傾向、消化器系でもウィルス対策によって肝がんが、ピロリ菌除去によって胃がんが減っています。片や、食生活と密接な関係がある大腸がんは予防手段が講じにくいため、患者は増加傾向。そんな中で化学療法の存在感がますます増しています。

Doctor’s
Point ❶
大腸がん治療において化学療法の有用性は高まりつつある

ステージⅣの進行がんに、分子標的薬の新しい可能性

「大腸癌治療ガイドライン」による大腸がんの治療をおさらいしてみましょう。ステージ0~Ⅲはまず切除によってがんを取り除きます。加えて再発リスクが高いステージⅡまたはⅢになると、切除後に化学療法を行うことも。このような治癒切除が不可能なステージⅣの進行・再発大腸がんについては化学療法のみを行うことになります。

2012年ガイドラインで推奨されている抗がん剤には、いくつかの殺細胞薬と分子標的薬があり、これらを組み合わせて治療します。分子標的薬は、従来の殺細胞薬と比較して正常細胞に対する作用が少ないのが特徴で、抗がん剤治療を大きく進歩させるものです。ただし遺伝子に異常(変異)のある患者さんには効果が期待できない、分子標的薬特有の副作用などもあり、使用時には十分な注意が必要でしょう。2013年5月、この分子標的薬の一種で、経口投与が可能な「マルチキナーゼ阻害剤」が発売されました。適応となるのは治療切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌で「1日1回160㎎を3週間連続投与して1週間休薬」というサイクルで使います。大腸がんは標準治療後も全身状態が良い人が多く、潜在的に適用となるケースも多いと見られます。

Doctor’s
Point ❷
大腸がんは、標準治療後も全身状態が良く元気な人が多い

手足症候群の副作用を早めに察知し対応

分子標的薬における特有の副作用のひとつに手足皮膚反応があります。その多くは急激な手足の皮膚反応の発生で、日常生活に支障が出るケースも少なくありません。また、頻度は少ないのですが、肝機能障害、血圧上昇、下痢なども認められています。いずれも自覚症状を伴い、生活の質(QOL)の低下につながりやすいものですが、管理をしっかりすればコントロールすることは十分可能です。

重篤な症状を訴える患者さんには、休薬をせざるを得なくなります。このため、早めに副作用を察知して、用量を調整するなどして対応していくことが、長く使い続けるためには重要な鍵になります。

Doctor’s
Point ❸
副作用をコントロールすることで、長期の投与ができるように

Column

医師、看護師、薬剤師が「チーム医療」で取り組む当院の試み

当院では、医師、薬剤師、看護師などの多職種によるチーム医療を日常的に実践しています。2013年5月に発売された経口の分子標的薬、レゴラフェニブを導入する3カ月程前から、特別なチームを編成して、主として手足症候群についての対策を立て、フォローアップする体制を作りました。
通常、21日処方の薬剤であれば次の来院は21日後ですが、レゴラフェニブについては、投与1週間目に1回来ていただき手足の状態をチェックしています。具体的には、3段階の管理で、まず専用の「薬剤師外来」を設置し、診察の前に薬剤師が患者を面談。手足の状態を確認すると共に服薬状況の確認も行います。その後、医師が診察を行い、副作用などの具合によっては用量の再設定を行います。最後に、手足症候群が見られる場合は、看護師が、保湿剤としてステロイド軟膏を塗布したり、尿素剤で角質を除去するように努めます。早期の調整によって、後の中止や脱落を予防することができるようになります。
薬物治療は日々進歩しています。この新薬を待望していた患者さんが当院にも多数おられ、今後は年間で100人以上に投与されると見込まれています。抗がん剤によって副作用が起こるのは避けられませんが、副作用を予防・治療する支持療法によって患者さんの負担を軽減し、投与量を維持していくことが重要であると考えています。

PROFILE    水沼 信之(みずぬま のぶゆき)
1984年 東京慈恵会医科大学卒/1988年 癌研究会附属病院にて化学療法科医員/ハーバード大学医学部ダナファーバー研究所に留学/1995年 アメリカ国立がん研究所(NCI)/1997年 癌研究会附属病院化学療法科へ戻る/2004年より外来治療センター医長、化学療法センター医長を経て現職