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BAY’S INTERVIEW

2013 Spring

BAY’S INTERVIEW

第1回 がんと闘い、克服した人気ジャーナリスト

「ニュースの職人」としてマスコミで活躍中のジャーナリスト、鳥越俊太郎さん。2005年に大腸がんを発症した後、何度かの転移を乗り越え、現在も精力的に仕事をこなしておられます。
今年73歳にはとても見えない若々しさと、昨年はホノルルマラソンを完走されたという驚きの体力…そんな鳥越さんの健康管理術や、手術や入院といった闘病生活の中で感じた医療従事者への思いを、語っていただきました。

医療に関わる人々は誰もが「患者の不安」に寄り添える感性を持っていてほしい。

4度の手術を経て今、人生で最も元気です。その秘訣? かなりストイックですよ(笑)

――医療に関する取材や講演を、精力的にこなしておられますね。
2005年に大腸がんが発覚、その後、肺と肝臓に転移が見つかり、計4回の手術を受けました。その経緯を書いた「がん患者」という本も出版し、その頃から「患者の立場からの話を聞きたい」と依頼は増える一方です。がんになる前と比べれば仕事量は約3倍に増え、現在もほとんど休みはありません。
――今年73歳になられるとか。外見の若々しさはもちろん、エネルギッシュな活動ぶりには圧倒されます。
僕はね、がんを患ってからの方が健康なんです。体への意識が高くなり、日常生活に気をつけるようになったから。おかげで昔よりも疲れにくく、ハードなスケジュールも苦になりません。一病息災とはよく言ったものですね。
――具体的には何をされているのですか。
大きくは食事と運動です。今の食生活は…朝食はジャコと豆腐、豆乳のヨーグルト、あとは紅茶を飲むくらい。昼食は食べない。夕食は日によって違いますが、刺身とかサラダとか煮魚とか。ご飯は食べません。1日の摂取カロリーは1400~1500kcalくらいかな。運動は週に3回、ジムに通って体を鍛えています。
――何とストイックな。ストレスはたまらないのですか。
僕は若い頃からストイックなんです。禁欲的な方向へ自分を追い込むタイプだね。自らをコントロールできているという達成感が気持ち良く、逆に欲望のまま食ったり飲んだりすると嫌な気持ちになってしまう。
――よほど意志が強くなければ難しいかもしれません。
人間、誰もが自分をコントロールするのが得意とは限りませんからね。でも欲望のままに生きていると生活も体も乱れて、健康から遠ざかってしまうことは間違いないでしょう。それを指導し矯正するのが、医師をはじめとした医療従事者の役割だと思いますよ。手術でがんを切り取って終わりでなく、生活指導を含めて治療は行われるべきなんです。とはいえ現代の医学は専門化、細分化されていますから、日常生活全般に関するサジェスチョンは、ホームドクターといわれる近所の開業医が担えれば理想ですね。

「かかりつけ」と呼べる医師は2人います。どちらも僕にとって必要な存在ですよ。

――専門医と開業医の役割分担に賛成なのですね。
そう。長野県がなぜ長寿日本一になったか知っていますか。あそこは「保健補導員」という制度があるんです。地域住民から選ばれた補導員が、健康について学んだり、周囲の人々に広めていくという試みです。身近なところから健康教育を行うという風土が根付いているわけ。都会でも同じことができると良いんですが、難しいよね。日常的なコミュニケーションの中で、人々の健康意識を高めていくのは、身近なホームドクターをおいて他にないと思いますよ。
――鳥越さんには「かかりつけ」と呼べるホームドクターはいらっしゃいますか。
いますよ。がんの手術を受けた東京の総合病院は長くお世話になっているところで、大きな病気や手術は常にここです。しかし日常的に診てもらうホームドクターは東洋医学にも造詣が深いクリニックで、ずっと昔からのお付き合いです。
――厳格な生活コントロールも、クリニックのアドバイスなのですか。
ええ、生活の質を高めて免疫力を上げることで、がんに打ち勝つのだと言われました。僕の場合は、がんを手術してくれた総合病院のドクターと、その後の健康管理をアドバイスしてくれたクリニックのドクター、2人がいたからこそ今があるのだと思っています。
――西洋医学も東洋医学もどちらも否定しない?
患者にとっては、良くなればどちらでもかまわないんですよ。僕は、がんが発見されたら手術を受けて、抗がん剤も飲む。同時に東洋医学の知恵も生活に取り入れる。僕の場合はね、肺に転移したものの、がん細胞の増殖が非常に緩慢だったんです。ホームドクターは「免疫力を上げたからだ」と言いますし、総合病院では「抗がん剤が効いたから」と(笑)。僕自身は、両方の「いいとこ取り」をしたからだと思っているんです。

医療に関わる人々に僕が望むことは技術よりもむしろ「心」のあり方ですね。

――様々な関わりの中で、鳥越さんが医療に関わる人々に望むことをお聞かせください。
僕はがんの手術後、ものすごい震えに襲われたことがあったんです。家族も帰った夜中、いきなりガタガタ震えだして、うめき声が漏れるほど…。何が起きたんだろう、もうこのまま死ぬんじゃないかと不安になってね。そこに看護士さんが見回りに来てくれたのでホッとして訴えたら、「術後にはよくあることなので大丈夫ですよ」と、それだけ。確かによくあることらしいんだけど、こっちは初めてでしょう? もう少し丁寧に説明してくれると不安もなくなるのに…と思いました。
――医療現場では日常でも、患者にとっては初めての体験…。
そう、当然そこには超えがたい溝があるわけですが、少しでも患者の不安に寄り添えるような考え方をしてほしい。それはもう医師、看護士、薬剤師といった医療スタッフ全てに望むことです。患者が今何を心で思っているのか、何を苦痛だと思っているのか。ちゃんと一つずつ感じ取って対応してくれる医療従事者が増えてほしいと思います。
――病気や怪我を治療するだけでなく、心のケアもできる医療従事者でいてほしいということですね。
僕がよく言うのは、医師や看護士は一度は患者になるべきだと。人間、やっぱり自分が体験したり、現場で見たり聞いたりしたことじゃないと分からない。一番良いのは、インターン制度みたいに「患者を体験する制度」を作れば良いんですよ。そうしたら医療の現場は確実に変わると思います。
――そう言えるのは、やはりご自分が患者を体験されたから、なのですか。
全身麻酔を打たれて色々な呼吸器を付けられたり、導尿されたり、患者って大変なんですよ(笑)。手術を受けるだけじゃなく、術前術後にこれほど色々なことがあるのを、患者になって初めて知りました。そんな体験をこうして話したり、本に書いたりしているのは、これから患者となる人々の参考になればいいという気持ちからなんです。「これは鳥越が本に書いていたぞ」と思えば少しは安心できるかなと。けれど本来は、医療現場に働く側が、患者の心に寄りそうことで、緊張や不安を和らげるべきだと思うんですよ。
PROFILE    鳥越 俊太郎(とりごえ しゅんたろう)
1940年生まれ、福岡県出身。京都大学卒業後、毎日新聞社に入社。社会部、テヘラン特派員、「サンデー毎日」編集長を経て同社を退社し、テレビの世界へ。自ら「ニュースの職人」と名乗り、キャスターやコメンテーターとして活躍。2005年に大腸がんが発覚し、以来、がん患者や家族を対象とした講演活動を積極的に行っている。
BOOK

『がん患者』
講談社
がん発覚から手術、闘病生活、そして転移と再手術…自らのがん体験をジャーナリストの目で徹底的に観察した全記録。日本のがん治療の現状がわかるルポルタージュとして、また「生きる」ことに前向きになれるメッセージとして、読みごたえのある一冊。